院長がみずからフデをとり、
かえで在宅診療所の「道具たち」の物語を綴っていきます。
診療所ができる前から集まりはじめた道具たち。
それぞれに小さな役割と、静かな佇まいがあります。
この連載では、その一つひとつを紹介していきます。
– 第1話:クルマ

「診療所を創ろう!」
そう思い立ったのは、2025年春のことでした。
そして、まず最初に買ってしまったのがこのクルマです。
新車の発注から納車までには半年ほどかかるので、
「診療所が完成する頃に、ちょうど届くだろう」
そんな目算でした。
でも──だがしかし。
診療所の場所決めから内装工事までが思いのほか難航し、
クルマのほうが先に来てしまったのです。
まだ何もないのに、クルマだけが先に佇んでいる。
「本当に開院できるのだろうか?」と迷いもあった時期でしたが
その姿を見たとき
「もう前に進むしかないな」と、不退転の決意が静かに固まりました。
かえで在宅診療所の物語は、
この一台のクルマから始まりました。
– 第2話:医師の道具
医師の道具といえば、まず思い浮かぶのは”聴診器”でしょう。
かえで在宅診療所でも、例にもれず一つの聴診器を使っています。
実はこれ、少しだけ高級なものを選びました。
「良い道具があると、診療の気分も上がるだろう」
そんな思いがあったのです。
そういえば、昔ある先生がこう言われました。
『聴診器の値段より、イヤーチップの間にあるモノ(医師の頭)の方が重要だよ』
その言葉を聞いたときの私は、ただ静かにうなずくしかありませんでした。
どれだけ良い道具を持っていても、
それをどう使うか、何を感じ取るかは、
結局のところ医師自身にかかっています。
初心をわすれず。
かえで在宅診療所の診療は、今日もこの一本の聴診器とともに始まります。
– 番外編:スマホ6台
かえで在宅診療所のスマホの電話番号は、
末尾を「8910(はち・きゅう・じゅう)」で揃えています。
その番号をキープするために、
早い時期にスマホを六回線まとめて購入しました。
「かえでのスタッフは、末尾“はちきゅうじゅう”から電話します」
と言うために、言いたくて、必要人数分を先に確保したのです。
……とはいえ、その時点で、その後しばらくも、
それを持つべきスタッフが誰もいなくて。
本体カラーを見比べて、
「色、フルコンプ〜」
とか言いながら悦にはいり、
その電源を入れたり切ったりしておりました。
– 第3話:オンライン資格確認端末
オンライン資格確認端末の導入は、
開設準備の中でもひときわ手強い相手でした。
手続きを進め、マニュアルを読み、
何度も「難しすぎる…」と固まりながら、
それでもなんとかひとりで導入完了。
後日、ベンダーの担当者から
「自分でセッティングした先生を初めて見ました」
と言われ、
やっぱり普通はやらないコトなんだなと知りました。
でも「為せば成る」を体現できたので満足です。
– 第4話:看護師バッグ
看護師バッグのことは、
おフジさんに語ってもらうのがいちばん早い。
彼女がどこかの診療所で見た、
とても合理的なバッグに感動したのだそうです。
必要な物品を用途別にビニールポーチへ分けて入れる。
余計なものは持たない。
いわば 『荷物へらし隊』。
バイタル測定セット、採血セット、尿道カテーテル類、
褥瘡処置セット、点滴セット──
どこでも、誰でも、必要なものを迷わず取り出せるように整えました。
その結果、思いのほか軽く美しく仕上がったらしく、
おフジさんが振り返ってひと言。
「もうちょっと持っても良いかも~」
……いや、へらし隊はどこ行った?
つづく。
「予告編:パソコン九台」