院長の余白 “油断禁物”
在宅医療でも、診察は”open question”から始まります。
医師が患者さんに向かって 「どうしましたか〜」 と語りかける、あの最初の一言です。
患者さんが ”ご自身の言葉で” 語り始めるのを、まずは一通り、じっと聞きます。
話がそれるようであれば、軌道修正を促して必要な話を聞き取っていきます。
多くの方は、
「今日はこれを言いたい」 という“ネタ”を心の中で準備して、訪問診療を待ち構えてくれているので、
診察が始まるとすっと本題に入っていきます。
……ただ、そうではない方もいるのです。
”在宅酸素”を使い、歩くのもやっとのご高齢の方がいました。
診察が始まると、その方は本題とはほぼ関係のない話を 15〜20分、息つく間もなく語り続けます。
私が軌道修正する余地は、まったく与えてくれません。
「やれやれ、どうやらお元気で“著変なし”だ。今日はこのあたりで引き上げるか……」
と私が腰を上げた、その瞬間──
『ああ、そういえば、ここ最近ね、夜に胸が痛かったね。』
な、なんですと!?…… 慌てて座り直す羽目になりました。
すこし離れたところで診察を見守っていた娘さんも、
『なんで最初に言わないの……』 と脱力されていました。
単純に「話が飛ぶ」ケースは、在宅でも無いわけではありません。
しかし──
『胸が痛かった』『息が苦しかった』──
そんな医師にとっては重大な言葉を、長い雑談の最後にまるでついでのようにさらっと口にされる。
軽やかに、うっかりすると聞き逃すようなタイミングで。
しかも、こんなことが一度ならず、二度、三度…
本当に、希有なお方でした。